B型肝炎について(一般的なQ&A)
の改訂にあたって
本Q&Aは平成16年の初版以来、B型肝炎の診断、予防、治療に関する研究の進歩に合わせて改訂を重ね、今日に至ったものです。
このたびは、体裁を改め、B型肝炎ウイルスとB型肝炎の病態、および予防の解説を中心にできるだけわかりやすく書き改めました。
なお、治療については、特に進歩が著しく、日進月歩の状態にあることから、本Q&Aではその概要を記述することに止めました。
最新の情報については、治療研究の成果をもとに1年ごとに改訂、公表される厚生労働省の研究班(熊田班)による「B型慢性肝炎治療のガイドライン」(当財団のHP「肝炎研究支援」に掲載)をご利用いただくことにいたしました。
本Q&Aと併せてご活用いただければ幸いです。
平成26年7月1日
公益財団法人ウイルス肝炎研究財団
<概要版>
肝臓の働きには、
- 栄養分(糖質、たん白質、脂肪、ビタミン)の生成、貯蔵、代謝
- 血液中のホルモン、薬物、毒物などの代謝、解毒
- 出血を止めるための蛋白の合成
- 胆汁の産生と胆汁酸の合成
- 身体の中に侵入したウイルスや細菌感染の防御
などがあり、我々が生きていくためには健康な肝臓であることがとても大切です。
B型肝炎は、B型肝炎ウイルス(HBV)の感染によって起こる肝臓の病気です。
B型肝炎には、急性B型肝炎と、慢性B型肝炎があります。急性B型肝炎は、成人が初めてHBVに感染して発病したものであり、慢性肝炎は、HBVに持続感染している人(HBVキャリア)が発病したものです。慢性B型肝炎を放置すると、病気が進行して、肝硬変、肝がんへ進展する場合があるので、注意が必要です。
肝臓は予備能力が高く、慢性肝炎や肝硬変になっても自覚症状が出ないことが多いことから、 B型肝炎ウイルスに感染していることが分かったら、自覚症状がなくても医療機関を受診して 肝臓の状態を正しく評価してもらうことが大切です。
B型肝炎ウイルス(HBV)は、主として感染している人の血液を介して感染します。また、感染している人の血液中のHBVの量が多い場合は、血液が混入している体液などを介して感染することもあります。
具体的には、以下のような場合に感染が起こる可能性があります。
- HBVに感染している人と性交渉をもった場合
- 注射針・注射器をHBVに感染している人と共用した場合
- HBVに感染している人の血液が付着した針を誤って刺した場合(特に、保健医療従事者は注意が必要です。)
- HBVに感染している母親から生まれた子に対して、適切な母子感染予防措置を講じなかった場合(ただし、母子感染予防を行えば、母胎内感染例を除いてほとんどが予防可能です。詳しくはQ29をご覧ください。)
現在のわが国では日常生活の場で、HBVに感染することはほとんどないと考えられています。なお、以下のような場合には、HBVは感染しません。
- HBVに感染している人と握手した場合
- HBVに感染している人と軽くキスした場合
- HBVに感染している人と食器を共用した場合
- HBVに感染している人と一緒に入浴した場合等
現在のわが国では、感染する可能性は極めて低い状態となっています。
従来より、我が国では全国の日赤血液センターにおいてB型肝炎ウイルス(HBV)感染予防のためのスクリーニング検査(HBs抗原検査、HBs抗体検査、HBc抗体検査)が行われています。
さらに、1999年10月からは、核酸増幅検査(Nucleic acid Amplification Test:NAT)によるB型肝炎ウイルス遺伝子(HBV DNA)の検出が導入され、血液製剤の安全性は一段と向上しています。
これらの努力にもかかわらず、我が国では輸血によるHBVの感染は、ごくまれ(年間10例未満)ではあるものの、残念ながらまだ発生し続けている現状にあります。
現在では、血漿分画製剤(アルブミン、ガンマグロブリン、血液凝固因子製剤など)については、 NATによるHBV DNAの検出を含めたスクリーニング検査に加えて、原料血漿の6か月間貯留保管による安全対策や、製造工程におけるウイルスの除去、不活化の措置が行われていることなどから、HBV感染の可能性は極めて低い状態となっています。
しかし、どのような検査によっても、感染ごく初期(HBs抗原のウィンドウ期)の人の血液中に存在するごく微量のウイルスは検出できない場合があることをよく認識して、検査目的での献血は絶対にしないことが大切です。感染の不安のある方は、まず、保健所等で検査を受けてください。
詳しくはQ22、Q23をご覧ください。
B型肝炎ウイルス(HBV)に感染すると、全身の倦怠(けんたい)感に引き続き食欲不振・悪心(おしん)・嘔吐(おうと)などの症状が現われ、これに引き続いて黄疸(おうだん)が出現することがあります。他覚症状として、肝臓の腫大がみられることもあります。これが、急性B型肝炎の症状です(顕性感染)。一方、症状が出ないまま治ってしまう場合がありますが、これを不顕性感染と呼びます。
HBVに持続感染している人(HBVキャリア)では自覚症状が出なくても慢性肝炎が潜んでいて治療が必要な場合がありますので、専門医による精密検査とその後の定期検査、必要に応じて適切な治療を受けるなどの健康管理を行うことが大切です。
B型肝炎ウイルス(HBV)に感染しているかどうかは、血液を検査して調べます。
血液検査では、まずHBs抗原を検査します。HBs抗原が検出された場合、その人の肝臓の中でHBVが増殖しており、また、血液の中にはHBVが存在するということを意味します。
血液の中にHBs抗原が検出された人の中にはHBVに初めて感染した人とHBVに持続感染している人(HBVキャリア)とがいます。
B型肝炎の治療法には、大きく分けると、抗ウイルス療法(インターフェロンや核酸アナログ製剤を用いた治療法)と肝庇護療法の2つの方法があります。
急性B型肝炎の場合は、こうした治療を行わなくともほとんどの人で肝炎は完全に治癒します。しかし、劇症化する場合もあることから注意が必要です。
抗ウイルス療法により十分な効果が得られなかった場合でも、肝庇護療法により肝細胞の破壊の速度を抑えることによって、慢性肝炎から肝硬変への進展を抑えたり遅らせたりすることが出来ますので、詳しくは肝臓専門医(あるいはかかりつけ医)にご相談ください。
他人の血液になるべく触れないことが大切です。
具体的には、以下のようなことに気をつけてください。
- 歯ブラシ、カミソリなど血液が付いている可能性のあるものは共用しない。
- 他の人の血液に触るときは、ゴム手袋を着ける。
- 注射器や注射針を共用して、薬物(覚せい剤、麻薬等)の注射をしない。
- よく知らない相手との性交渉には他の性感染症の予防と同様にコンドームを使用する。
以上の行為の中には、そもそも違法なものが含まれています。感染する危険性が極めて高いことは言うまでもありませんが、違法行為は行わないことが基本です。
他人の血液に触れる機会が多い医療関係者等は、あらかじめB型肝炎ワクチン(HBワクチン)を接種しておくことをお勧めします。また、B型肝炎ウイルス陽性の血液により汚染された場合には、HBsヒト免疫グロブリン(HBIG)を用いて感染を予防することができます。
詳しくは、Q25、Q26をご覧ください。
B型肝炎ウイルス持続感染者(HBVキャリア)のうち、約10%から15%の人が慢性肝炎を発症し、 治療が必要になるとされています。しかし、実際には、これを裏付ける確かなデータがあるわけではなく、HBVキャリアの集団を断面でみた時、その10~15%がALT(GPT)値の異常を示すことが分かっているにすぎません。
いずれにしろ、HBVキャリアが慢性肝炎を発症した場合、適切な健康管理や必要に応じた治療をせずに放置すると、自覚症状がないまま肝硬変へと進展したり、肝がんになることがあるので、注意が必要です。HBVに感染していることが分かった人は、必ず定期的に医療機関を受診して、その時、その時の肝臓の状態(肝炎の活動度、病期)を正しく知り、適切に対処するために肝臓専門医の診察を受けることが大切です。
<詳細版>
総論
B型肝炎は、B型肝炎ウイルス(HBV)の感染によって起こる肝臓の病気です。
肝臓は予備能力が高く、日常では全体の20%程度しか使われていないため、慢性肝炎や肝硬変 になっても自覚症状が出ないことが多いことから、「沈黙の臓器」と呼ばれています。従って症状がなくても専門の医療機関を受診して肝臓の状態を正しく評価してもらうことが大切です。
HBV感染とB型肝炎の特徴を簡単にまとめると、以下のようになります(HBVとB型肝炎の知識.(財)ウイルス肝炎研究財団編2010)。
- HBVは、感染している人の血液を介して感染する。また、HBVを含む血液が混入した人の体液などを介して感染することもある。
- HBVの感染には、感染成立後一定期間の後にウイルスが生体から排除されて治癒する「一過性の感染」とウイルスが年余にわたって生体(主として肝臓)の中に住みついてしまう「持続感染」(HBVキャリア状態)との2つの感染様式がある。
- 一般に、成人が初めてHBVに感染した場合、そのほとんどは「一過性の感染」で治癒し、臨床的には終生免疫を獲得し、再び感染することはない(近年、成人が初めてHBVに感染した場合でも、ジェノタイプAのHBVに感染した場合、10%前後の頻度でキャリア化することが分かってきました)。
- HBVの一過性感染を受けた人の多くは自覚症状がないまま治癒し(不顕性の感染)、一部の人が急性肝炎を発症する(顕性感染)。また、急性肝炎を発症した場合、稀に劇症化することがある。
- 不顕性、顕性感染の区別なく、治癒した後には臨床的には終生免疫を獲得する(しかし、最近になって、本人の健康上問題はないものの、ウイルス学的に、肝臓の中にごく微量のHBVがずっと存在し続けていることが分かってきました)。
- HBVに感染している母親から出生した児に対してHBV感染予防をせずに放置した場合、児はHBVキャリアとなる場合がある(母子感染予防策を講じることにより、母胎内感染例を除くほとんどの例でキャリア化を防止することができる)。
- 乳幼児期にHBVに感染した場合、キャリア化することがある(福田、他.1978)。
- HBVキャリアのうち10~15%が慢性肝炎を発症する(正確には、HBVキャリアの集団を断面でみると、10~15%の人にALT(GPT)値の異常が認められることが分かっています)。
- 慢性B型肝炎の治療法には、肝庇護療法、抗ウイルス療法などがある。
- 慢性B型肝炎を発症した場合、放置すると、気がつかないうちに肝硬変、肝がんへ進展することがあるので、注意が必要である。
- 一般に、HBV持続感染に起因する肝がん(B型の肝がん)は、慢性の炎症が持続した結果線維化が進展した肝臓を発生母地として、50歳代前半の年齢層に好発する(ただし、肝の線維化が進んでいない若いHBVキャリアにも肝がんが発生することがあるので、注意が必要である)。
B型肝炎ウイルス(HBV)に初めて感染すると、全身倦怠感に引き続き食欲不振、悪心・嘔吐などの症状が出現することがあります。これらに引き続いて黄疸が出現することもあります。 黄疸以外の他覚症状として、肝臓の腫大による右背部の鈍痛や叩打(こうだ)痛をみることがあります。これが急性B型肝炎(HBVの顕性感染)です。しかし、HBVに初めて感染しても自覚症状がないままで経過し、ウイルスが生体から排除されて、治癒してしまうこともあります(HBVの不顕性感染)。
なお、B型肝炎ウイルス持続感染者(HBVキャリア)が肝炎を発症した場合にも、急性B型肝炎と同様の症状が出現する(HBVキャリアの急性増悪)ことがあるため、肝炎の症状がみられた場合には、適切な検査を行って両者を区別する必要があります。
HBVキャリアが慢性肝炎を発症している場合でも、ほとんどの場合自覚症状に乏しいので、定期的に肝臓の検査を受け、主治医の指導の下に健康管理を行い、必要に応じて治療を受けることが大切です。
診断と検査
B型肝炎ウイルス(HBV)に感染しているかどうかは血液を検査して調べます。
血液検査では、まずHBs抗原を検査します。検査でHBs抗原が検出された場合、その人の肝臓の中でHBVが増殖しており、血液の中にはHBVが存在するということを意味します。
HBVそれ自体が血液中に存在しているかどうかを検査する方法としては、HBVの遺伝子(HBV DNA)の一部を増幅して検出する核酸増幅検査(Nucleic acid Amplification Test:NAT)が実用化されています。また、この方法により、血液中に存在するHBVの量を定量することもできます。
核酸増幅検査については、Q8をご覧ください。
B型肝炎ウイルス(HBV)は、直径42nm(ナノメーター:1nmは1mの10億分の1の長さ)の球形をしたDNA型ウイルスで、ヘパドナ(ヘパ:肝、ドナ:DNA、つまり肝臓に病気を起こすDNA型のウイルスという意味)ウイルス科に属します。
ウイルス粒子は二重構造をしており、ウイルスDNAをヌクレオカプシド(nucleocapsid)が包む直径約27nmのコア粒子と、これを被う外殻(エンベロープ、envelope)から成り立っています。HBV粒子の外殻を構成するタンパクがHBs抗原タンパクであり、コア粒子の表面を構成するタンパクがHBc抗原タンパクです。
HBVが感染した肝細胞の中で増殖する際には、HBVの外殻を構成するタンパク(HBs抗原)が過剰に作られ、ウイルス粒子とは別個に直径22nmの小型球形粒子あるいは桿状粒子として血液中に流出します。一般にHBVに感染している人の血液中には、HBV粒子1個に対して小型球形粒子は 500倍から1,000倍、桿状粒子は50倍から100倍存在します。
なお、HBc抗原は、外殻(エンベロープ)に包まれて、HBV粒子の内部に存在することから、そのままでは検出できません。
HBe抗原は、B型肝炎ウイルス(HBV)の芯(コア粒子)の一部を構成するタンパクですが、HBVに感染した人の肝細胞の中で増殖する際に過剰に作られて、HBVのコア粒子を構成するタンパクとは別個に、可溶性の(粒子を形成しない)タンパクとしても大量に血液中に流れ出します。一般の検査で検出されるHBe抗原は、血液中に流れ出した可溶性のHBe抗原タンパクです。
HBe抗原タンパクは、感染した肝細胞のなかでHBVが盛んに増殖している間は過剰に作られ、血液中にも流れ出しますが、HBVの遺伝子の一部が変異すると、血液中へ流れ出す形での可溶性のHBe抗原タンパクは作られなくなります。このような状態になると、血液中のHBe抗原は検出されなくなり、代ってHBe抗体が検出されるようになります。一般に、このような状態になると、肝細胞の中でのHBVの増殖も穏やかになります。
B型肝炎ウイルス(HBV)に関連する抗原と、それぞれの抗原に対応する抗体は下記の通りです。
HBs抗原 HBs抗体
HBc抗原 HBc抗体
HBe抗原 HBe抗体
HBVに感染すると、HBVに関連する抗原とそれぞれに対応する抗体が、順を追って血液中に出現します。それぞれの抗原、抗体と、その意味について、順を追って説明します。
(1)HBs抗原とは?:
Q5で説明したとおりです。
(2)HBs抗体とは?:
HBV粒子の外殻、小型球形粒子、桿状粒子(HBs抗原)に対する抗体です。一過性にHBVに感染した場合、HBs抗体は、HBs抗原が血液の中から消えた後に遅れて血中に出現します。
HBs抗体にはHBVの感染を防御する働きがあります。
(3)HBc抗原とは?:
HBVの芯(コア粒子)を構成するタンパクですが、外殻(エンベロープ)に包まれてHBV粒子の内部に存在することから、そのままでは検出できません。特殊な処理を施し、HBV粒子全体をバラバラに破壊することにより、HBVのコア粒子を構成するHBc抗原とHBe抗原の両者を同時に検出できるようになります。この方法を用いることにより、B型肝炎ウイルス持続感染者(HBVキャリア)の血液中のウイルス量を知ることや、感染した肝細胞の中でのウイルス増殖の状態を知ること、さらにはB型肝炎に対する抗ウイルス療法の効果を評価することができるようになりました。
(4)HBc抗体とは?:
HBVのコア抗原(HBc抗原)に対する抗体です。HBc抗体にはHBVの感染を防御する働きはありません。
B型肝炎ウイルス(HBV)に一過性に感染すると、HBc抗体は、HBs抗原が血液中から消える前の早い段階から出現します。まずIgM型のHBc抗体が出現し、これは数か月で消えます。IgG型のHBc抗体は、IgM型のHBc抗体に少し遅れて出現します。この抗体は、ほぼ生涯にわたって血中に持続して検出されます。
なお、血液中にHBs抗原が検出されなくなった後でも、HBc抗体陽性の人では、肝臓の中にごく微量のHBVが存在し続けており、血液中にも、核酸増幅検査(NAT)によりごく微量のHBVが出没する場合があることが分かってきました。
詳しくは、Q22をご覧ください。また、核酸増幅検査(NAT)についてはQ8をご覧ください。
(5)HBe抗原とは?:
HBVの芯(コア粒子)の一部を構成するタンパクですが、これとは別に、HBVの増殖に伴って可溶性のタンパクとしても血中に放出されていることが知られています。
一般に、検査室で検出されるHBe抗原は、この可溶性のタンパクであることがわかっています。血液中のHBe抗原が陽性ということは、その人の肝臓の中でHBVが盛んに増殖していることを意味します。言いかえれば、HBe抗原が陽性の血液は、HBVの量が多く、感染性が高いことを意味します。なお、HBVに一過性に感染した場合でも、ウイルスの増殖が盛んな感染のごく初期には、一時的にHBe抗原が陽性となります。
(6)HBe抗体とは?:
HBe抗原に対する抗体です。HBe抗体にはHBVの感染を防御する働きはありません。
HBVに一過性に感染した場合、HBs抗原が血液中から消える前の早い時期からHBe抗原は検出されなくなり、代ってHBe抗体が検出されるようになります。
HBVキャリアでは、肝臓に持続感染しているHBVの遺伝子の一部に変異が起こると、肝細胞の中でのHBe抗原タンパクの過剰生産と血液中への放出が止まり、HBe抗原に代ってHBe抗体が検出されるようになります。一般に、HBe抗体が陽性になると、HBVの増殖も穏やかになり、血液中のHBV粒子の量が少なくなることから、感染力も低くなることが分かっています。
HBVキャリアは、小児期にはHBe抗原陽性ですが、多くの人では10歳代から30歳代にかけてHBe抗原陽性の状態からHBe抗体陽性の状態へ変化し、これを契機に、ほとんどの人では肝炎の活動も沈静化することが分かっています。
核酸増幅検査(Nucleic acid Amplification Test:NAT)とは、標的とする遺伝子の一部を試験管内で約1億倍に増やして検出する方法です。
この方法を応用すると、血液中のごく微量のHBVを感度よく検出することができます。このことから、NATによるHBV DNA検査をスクリーニングに応用して、HBs抗原がまだ検出されないHBV感染早期(HBs抗原のウィンドウ期)の人の血液を見つけ出したり、HBs抗原が陰性でHBc抗体だけが陽性である人の中から、血液中にごく微量のHBVが存在している人の血液を見つけ出すことにより、輸血用血液の安全性の向上のために役立てられています。
また、NATにより血液中のHBV DNAの量を定量することができるようになったことから、HBV感染の自然経過を適切に把握して、健康管理に役立てたり、抗ウイルス療法を行った際の治療効果の判定に役立てることもできるようになりました。
現在認可を受けて市販されている各種の検査試薬を用いる場合、「正しい意味での偽陽性反応」はほとんどないといってよいでしょう。
ただし、HBVの一過性感染か、B型肝炎ウイルス持続感染者(HBVキャリア)かを判定するための検査、HBV感染の経時変化を知るための検査、治療方針を決めるための検査、抗ウイルス療法の効果を判定するための検査、感染予防のために緊急を要する検査等を行う際には、Q7で述べたHBV関連の抗原、抗体及びB型肝炎ウイルス遺伝子(HBV DNA)などの意義をよく理解した上で 目的にかなった検査法を選択し、得られた検査結果を適切に利用することが大切です。
現在認可を受けて市販されている各種の検査試薬を用いる場合、「正しい意味での偽陰性反応」はほとんどないといってよいでしょう。
ただし、それぞれの抗原、抗体検出試薬には、おのずとそれぞれの特性、すなわち迅速性、検出感度、定量性の有無などの長所、短所がありますので、B型肝炎の経過観察、治療効果の評価、検診等におけるB型肝炎ウイルス持続感染者(HBVキャリア)の発見、汚染事故発生時の迅速な対応等、目的にかなった検査法をその都度適切に選択して利用することが大切です。
感染時に生体に侵入したウイルスの量や、経過観察時に選択したHBs抗原検査法の感度などに よりHBs抗原が陽性となるまでの期間に多少の差はみられますが、チンパンジーにごく微量のB型肝炎ウイルス(HBV)(感染成立に必要な最小ウイルス量)を感染させた場合、増殖速度の遅いジェノタイプAの場合でも、80~100日で血中のHBs抗原が検出できるようになることが分かりました(Komiya Y.et al 2008)。詳しくは、Q22をご覧ください。
感染してからHBs抗原が検出されるまでの期間に差がみられることと同様に、感染時に生体に 侵入したB型肝炎ウイルス(HBV)量によってB型肝炎ウイルス遺伝子(HBV DNA)が検出されるまでの期間が異なることは容易に想定されます。チンパンジーにごく微量のHBV(感染成立に必要な最小ウイルス量)を感染させた場合、増殖速度の遅いジェノタイプAの場合でも、55~70 日で血中のHBV DNAが検出できるようになることが分かりました(Komiya Y. et al 2008)。詳しくは、Q22をご覧ください。
以下のような方々はB型肝炎ウイルス(HBV)検査を受けておくことをお勧めします。
a.不特定多数の方と性的な関係を持った方
b.家族にB型肝炎の方、またはB型肝炎ウイルス持続感染者(HBVキャリア)がおられる方
c.長期に血液透析を受けている方
d.妊婦(第一子の妊娠時)
e.不特定の人の血液、体液に触れる機会のある方(保育施設、高齢者施設に勤務する方、警察官、消防士、救急隊員、自衛官など)
f.その他(過去に健康診断等で肝機能検査の異常を指摘されているにもかかわらず、肝炎ウイルスの検査を受けたことがない方等)
献血時や検診時の検査で偶然HBs抗原が陽性であることが分かった人のほとんどはB型肝炎ウイルスの持続感染者(HBVキャリア)であると考えられます。
HBVの急性感染かHBVキャリアかは、IgM型HBc抗体検査やHBc抗体力価の測定、またはHBs抗原量やHBc抗体価の推移を追うことなどにより鑑別することができます。いずれの場合であっても、 B型肝炎に詳しい医師による肝臓の精密検査が必要です。
病院では一般に以下の検査が行われます。
〈血液検査〉
1. 肝炎ウイルスの検査
B型肝炎ウイルス持続感染者(HBVキャリア)であることを確認をします。また、HBe抗原、HBe抗体、HBVの量(HBV DNA量)、HBVの遺伝子型(ジェノタイプ)などについても調べます。
2. 血液生化学検査
AST(GOT)、ALT(GPT)値の測定により、肝細胞破壊の程度(活動度)を調べます。このほか、 肝臓の機能(タンパク質合成の能力、解毒の能力などが保たれているか)、血小板数なども調べます。
〈超音波(エコー)検査〉
肝臓の病期の進展度合(ごく初期の慢性肝炎か、肝硬変に近い慢性肝炎かなど:線維化の程度)、 肝臓内部の異常(がんの有無など)を調べます。
これらの検査の結果により、必要に応じて次の段階の検査(CT、MRI、血管造影など)が行われることもあります。
感染と予防
B型肝炎ウイルス(HBV)は主にHBVに感染している人の血液を介して感染します。また、感染している人の血液の中のHBVの量が多い場合には、その人の体液などを介して感染することもあります。
例えば、以下のような場合には感染する危険性があります。
- 適切な消毒をしていない器具を使って、ピアスの穴あけ、入れ墨、出血を伴う民間療法などを受けた場合
- HBV感染者が使った注射器・注射針を、適切な消毒などをしないでくり返して使用した場合
- 他人と注射器を共用して覚せい剤、麻薬等を注射した場合
- HBV感染者から臓器移植等を受けた場合
上記の行為の中には、そもそも違法なものも含まれています。感染する危険性がきわめて高いことはいうまでもありませんが、違法な行為は行わないことが基本です。
また、以下の場合にも感染する可能性があります。
- HBV感染者と性交渉をもった場合
- HBV感染者の血液が付着した針を誤って刺した場合
- HBV感染者の血液が付着したカミソリや歯ブラシを使用した場合
- HBVに感染している母親から生まれた子に対して、適切な母子感染防止策を講じなかった場合
1990年代以降の我が国では、日常生活の場で、HBVに感染することはほとんどなくなっていると考えられています。
感染することがあります。
B型肝炎ウイルス(HBV)に感染している人の精液や体液、分泌物などの中にごく微量の血液が混入することがあり、これらを介してHBVの感染が起こることがあります。
社会全般もしくは医療現場における衛生環境が必ずしも良い状態にあるとは言い難かった 1970年代までの我が国では、出生時の母子感染(垂直感染)や、さまざまな経路を介した感染(水平感染)が起こっており、その中の1つとして性行為によるHBV感染も存在していました。
しかし、その後、経済状態の改善に伴って社会全般の衛生環境が改善され、また、HBVの院内感染予防対策が普及した結果、輸血も含め医療に伴う感染はほとんどみられなくなり、様々な経路を介した水平感染のも大きく減少しました。また、1986年からは、全国規模での出生時のHBV母子感染予防対策も軌道に乗り、これ以降に出生した世代ではHBVの感染はほとんどみられない状態になっています。
従って、現在残っているHBV感染の多くは性行為に伴って起こるものと言えるでしょう。近年、若い年齢層を中心に、性行為に伴うHBV感染が拡大する傾向にあります。特に、これまでの我が国ではあまり見られなかったジェノタイプAのHBV感染が若い年齢層を中心に広がりつつあり、問題となっています。
不用意な性交渉は、HIVのみならずHBVに感染する危険性も高いことを知っておくことが大切です(詳しくはQ24をご覧ください)。
HBe抗原が陽性のB型肝炎ウイルス持続感染者(HBVキャリア)の配偶者では、感染する場合があります。かつて、新婚旅行から帰って間もなくB型急性肝炎を発病したケースに、「ハネムーン肝炎」という名前がつけられ、報告されたことがあります(Ohbayashi A. et al 1977)。HBVキャリアの人が結婚を予定し、相手がHBVに対する免疫を持っていない(HBs抗体が陰性である)ことが分かった場合には、相手の方にはあらかじめB型肝炎ワクチン(HBワクチン)を接種しておくことが望ましいといえます。
ただし、HBe抗原が陰性のHBVキャリアで、結婚後数年以上経ち、これまでに配偶者にHBVの感染やB型肝炎の発病が起こっていない場合には、過度に神経質になることはありませんが、念のため配偶者のHBs抗原、HBs抗体検査をしておくことをお勧めします(配偶者がすでにHBs抗体陽性である場合には感染は起こりませんので、心配はありません)。 HBワクチンの詳細については、Q26をご覧ください。)
以下のようなことに注意していれば、日常生活の場でB型肝炎ウイルス(HBV)に感染することはほとんどないといえます。
1.血液や分泌物がついたものは、むきだしにならないようにしっかりくるんで捨てるか、流水でよく洗い流す。
2.外傷、皮膚炎、鼻血などは、できるだけ自分で手当てをし、また手当てを受ける場合は、 手当てをする人に血液や分泌物がつかないように注意する。
3.カミソリ、歯ブラシなどの日用品は個人専用とし、他人に貸さないように、また借りないようにする。
4.乳幼児に、口うつしで食べ物を与えないようにする。
5.トイレを使用した後は流水で手を洗う。
6.女性のHBVキャリアは、月経中には浴槽に入ることを避ける。
一般に、集団生活の場でB型肝炎ウイルス(HBV)の感染が起こることはきわめて稀なこととされています。
実際、703人の入所者を擁するある介護福祉施設で4年間にわたって調べた結果、新たにHBVに感染した人はゼロであったという報告があります(寺田、他:1995)。この703人の中には、18 人のB型肝炎ウイルス持続感染者(HBVキャリア)が特別の扱いを受けることなく同居していたことが分かっています。
この結果は、日常生活の習慣を守っているかぎり、保育所、学校、職場などの集団生活の場でHBVキャリアが他人に感染させることはほとんどないことを示していると言えます。
しかし、ごくまれなことですが、皮膚炎を介した保育所内でのHBV感染事例の報告もあることから、集団生活の場ではQ19に掲げた事項は守るように注意する必要があります。
HBVキャリアであることを理由に保育所、学校、介護施設などで区別したり、入所を断ったりする必然性はありませんし、また許されることではありません。
現在、日本で行われている医療行為(歯科医療含む)でB型肝炎ウイルス(HBV)に感染することはまれと考えられています。しかし、まれに医療機関内での感染(宮城県B型肝炎調査検討会,2004)や、長期間にわたって血液透析を受けている方での感染事例(東京都劇症肝炎調査研究報告書,1995),(兵庫県B型肝炎院内感染調査報告,2000)が報告されており、今後も医療機関における感染予防の徹底を図ることが求められています。
核酸増幅検査(NAT)が広く普及したことに加えて、チンパンジーを用いた感染実験結果の詳細が報告されたことにより、B型肝炎ウイルス(HBV)感染の自然経過(HBV感染の早期と晩期)の詳細を知ることができるようになりました。
(1) HBV感染早期の経過
我が国で過去に行われたチンパンジーを用いた感染実験の結果から、HBs抗原が検出できるようになるまでの期間(HBs抗原のウィンドウ期)は、接種したHBV量が多ければ短く、少なければ長くなることは以前から知られていました(Q11参照)。
最近の、ジェノタイプAとジェノタイプCのHBVを用いたチンパンジーへの感染実験結果をみると、両者ともHBV DNA量に換算して10コピー相当を接種すると感染が成立することが明らかとなりました。また、感染成立後の末梢血中のHBV DNAの増加速度は、日本に多いジェノタイプCの方が欧米に多いジェノタイプAよりも速いことも明らかとなりました。一般化と安全性とを見込む観点から、増殖速度の遅いジェノタイプAの実験結果をもとに、HBV感染早期の自然経過を表したものが下図です。
ごく微量のHBV(感染成立に必要な最小量のHBV)に感染した場合、NATによりHBV DNAが初めて検出される(102コピー/mLのHBV DNA量に達する)までの期間は55~70日であることが分かりました。また、EIA法により初めてHBs抗原が検出されるまでの期間は80~100日であることも分かりました(Komiya Y.et al 2008)。
これらの結果は、ごく微量のHBVに感染した人の血液のすべてをNATによるHBV DNAの検出により排除しても、100%安全な輸血用の血液を確保することはできないことを示していると言えます。
(2)HBV感染晩期の経過
従来、HBs抗原が陰性で、HBc抗体、HBs抗体の両者又はいずれか一方が陽性である場合は、HBVの一過性感染経過後、又はB型肝炎ウイルス持続感染者(HBVキャリア)からの離脱後(HBV排除後)の状態と解釈されてきました。しかし、近年、生体部分肝移植例の詳細な経過観察結果などから、本人の健康上問題はないものの、このような状態にある人の肝臓の中には、ほとんど例外なくごく微量のHBVが持続して感染しており、血液中にもごく微量のHBVが存在し続けていることが明らかとなってきました(Uemoto S, et al. 1998, Murasawa H, et al.2000.)。これを模式図で示したものが下図です。
このような状態をHBV感染の晩期と呼び、このような状態にある血液の一部は、ごくまれに輸血後B型肝炎の原因となることも分かってきました。しかし、HBc抗体陽性の血液を輸血用血液から排除することが定着してからは、わが国ではこのような血液を感染源とする輸血後B型肝炎は、ほとんどみられなくなりました。
B型肝炎ウイルス(HBV)のスクリーニング検査については、1989年12月から、従来のHBs抗原検査に加えて、HBc抗体検査が導入されたことにより、輸血後B型肝炎、特に輸血後のB型劇症肝炎はごく例外的にみられるにすぎなくなりました(JRC NANB hepatitis research group. 1991)。
さらに1999年10月からは、核酸増幅検査(NAT)によるスクリーニングが全面的に導入されたことから、血液の安全性は一段と向上しました(Yoshikawa A. et al 2005. Yugi H et al 2006)。しかし、HBV感染のごく初期に献血された血液では、NATによってもウイルスを検出することができずに、感染源となってしまうことがあり(2012,2013年にはそれぞれ6例と7例)とごくまれではあるものの輸血による感染は現在に至ってもなお、おこっています(日本赤十字社 2013)。 このため、検査目的での献血は絶対にしないことが大切です。感染の不安のある方は、まず保健所等で検査を受けることが、ご自身の健康管理を行うためにも重要です。
従来、わが国には存在しなかったジェノタイプAのHBV感染が、若い年齢層を中心に広がりつつあり、問題となっています。
1997年から2007年までの10年間に日赤血液センターにおいて核酸増幅検査(NAT)により見出されたHBV DNA陽性(HBV感染早期)の献血者795例の解析結果をみると、ジェノタイプAのHBV陽性例は2001年から検出され始め、2003年以降は陽性例の20%強の頻度で見出されています(柚木、 他,2008)。
また、1991年から2009年にかけて、全国28の国立病院機構医療センターのチームによる547例の急性B型肝炎例の解析結果をみると、ジェノタイプAのHBV感染例はこのうちの137例 (25.0%)を占めており、年次的推移をみると、1991年から1996年には4.8%、1997年から2002年には29.3%であったものが、2003年から2008年には50.0%を占めるに至っています。
なお、感染経路は性的接触によるものが大半を占め、HIVとの重感染例が目立つという特徴がみられます(Tamada Y. et al 2012)。
今後はHBV感染を性感染症として新たな視点で捉え直し、対策を立てることが求められる時代を迎えていると言えるでしょう。
B型肝炎ウイルス(HBV)の感染防御抗体であるHBs抗体が多量に含まれる(HBs抗体高力価の)ヒトの血漿を原料として特別に作られたガンマグロブリン製剤を高力価HBsヒト免疫グロブリン (HBIG)と呼びます。HBIGには、1バイアル当たり200IU(国際単位)以上のHBs抗体が含有されています。
一般に、HBIGは筋肉内注射(筋注)により投与します。HBIGを筋注した場合、HBs抗体は短時間のうちに血中に出現する(筋注後48時間でプラトーに達する)ことから、HBVによる汚染が起こってしまった場合などの緊急時の感染予防(Masuko K. et al 1985)のために用います。
具体的には、
1.HBVの母子感染予防の目的
2.HBVに免疫を持たない医療関係者等が、HBV陽性の血液による汚染事故を起こした際などの感染予防目的
言いかえれば「汚染後の予防」のために使われます。
「感染予防」を目的として「感染防御抗体」を投与することを「受動免疫」と呼びます。
HBIGの投与による「受動免疫」では、血中の抗体価を短期間のうちに上昇させることができる一方、投与された抗体は短期間のうちに代謝されて減少する(半減期は約2週間)ことから、一 般に緊急を要する場合で、かつ短期間の(1~2ヶ月間以内の)予防のために効果を発揮します。
B型肝炎ウイルス(HBV)の感染防御を目的とするワクチンをB型肝炎ワクチン(HBワクチン)と呼びます。
現在は、大腸菌や酵母などを使って発現させたHBs抗原タンパクに免疫賦活剤(アジュバント)を吸着させ、液相に浮遊させたワクチン(遺伝子組み換え型沈降HBワクチン)が一般的に用いられています。
HBワクチンは、成人ではHBs抗原量に換算して1回量10μgを皮下に接種します。接種は図に示すプログラムに従って行います。3回目の接種は、初回の接種から4~5ヶ月目に行い、その1ヶ月後にHBs抗体検査を行ってワクチン効果の有無を確かめます。
HBVの母子感染予防の目的で新生児に使用する場合は、成人の1/2量をQ29に述べたプログラムに従って接種します。
HBワクチンが開発された当初に行われた治験では、このプログラムに従ってHBワクチンを接種した場合のHBs抗体獲得率は95%を超えるという成績が得られています。
HBワクチンの接種によって感染防御抗体であるHBs抗体を獲得させようとすることを「能動免疫」と呼びます。能動免疫では、感染防御抗体が作られる(免疫を獲得する)までに長期間を要することから、保健医療従事者などHBVに汚染されるリスクが高い集団にあらかじめ免疫を獲得させておく場合、すなわち「汚染前の予防」の目的、および長期間にわたり免疫状態を保つ必要があるHBVの母子感染予防などでその効果を発揮します。
(図)
なお、HBワクチンは、有効成分を液相に浮遊させたものであることから、使用にあたっては、 必ず十分に振って、沈澱している有効成分をあらかじめ浮遊させることが大切です。HBワクチンを接種しても有効でなかった(HBs抗体獲得が得られなかった)ケースを調べると、使用前に十分に振らなかったために、上清のみを接種している場合がよくみられることから注意が必要です。
母子感染
初めての妊娠で、それまでにB型肝炎ウイルス(HBV)検査を受けていない方は、必ず受けるようにしてください。
HBVに感染しているかどうかは、血液検査でHBs抗原を調べることにより、簡単に知ることができます。
妊婦検診でHBs抗原が陽性であることがはじめて分かった人のほとんどは、B型肝炎ウイルス持続感染者(HBVキャリア)であることが分かっています。
HBs抗原陽性であることが分かったら、必ずHBe抗原、HBe抗体の検査を受けるようにしてください。これらの検査は、生まれてくるお子さんのHBV感染予防の方針を決める上で大切な検査です。
詳しくはQ29をご覧ください
過去の研究から、HBe抗原陽性のB型肝炎ウイルス持続感染者(HBVキャリア)の母親から生まれた子供では、B型肝炎ウイルス(HBV)の母子感染予防措置を行わないで放置した場合、そのほぼ100%がHBVに感染し、このうちの85~90%が持続感染状態に陥る(キャリア化する)ことが分かっています(東京都衛生局母児間感染研究プロジェクトチーム)。
一方、HBe抗体陽性の母親から生まれた子供では、約10~15%にHBVの感染が起こりますが、キャリア化することはまれであることが分かっています(ただし、ごくまれに生後2~3ヶ月で劇症肝炎を発症する場合があることが知られています)。
B型肝炎ウイルス(HBV)の母子感染予防は、高力価HBsヒト免疫グロブリン(HBIG)とB型肝炎ワクチン(HBワクチン)とを組み合わせて用いることにより行います。
予防のためのプログラムは、母親がHBe抗原陽性のB型肝炎ウイルス持続感染者(HBVキャリア)である場合と、HBe抗原陰性、またはHBe抗体陽性のHBVキャリアである場合とで多少異なります。
HBV母子感染予防のための基本的なプログラムの概略を図に示します。
(図)
- HBIGは出生後できる限り早期に(遅くとも48時間以内に)筋注することが必要です。
- 特に、母親がHBe抗原陽性のHBVキャリアである時は、注意深く経過を観察しながら予防を行ない、児の血中のHBs抗体価が不十分であったり、検出されなくなった場合には、図に示した基本的なプログラムに加えて適宜HBIG、HBワクチンを追加投与して慎重に予防を行うことが必要です。
専門医が上記のプロトコールに従って注意深く母子感染予防を行えば、HBe抗原陽性の母親から生まれた児の95%~97%(母胎内感染例を除くほぼすべての児)がキャリア化を免れるとの成績が得られています。なお、HBVの母子感染予防には、保険医療が適用されます。
母親がHBe抗原陽性のB型肝炎ウイルス持続感染者(HBVキャリア)であっても、生まれた児に対してB型肝炎ウイルス(HBV)の母子感染予防が適切に行われている限り、特に授乳を制限する必要はありません。
予防のために投与した高力価HBsヒト免疫グロブリン(HBIG)と、B型肝炎ワクチン(HBワクチン)の接種により、児にはHBVの感染を防御する能力が与えられているからです。
ただし、この場合でも、母親の乳首に明らかな傷があったり、出血している場合には、感染を防御できる量を上回るHBVが口腔の粘膜を介して児の血液中に入り、感染する恐れがありますので、傷などが治るまでの間の授乳は控えてください。
B型肝炎ウイルス(HBV)母子感染予防の効果は、
1.予防開始以前(1980年まで)
2.治験により一部の児に予防が行われていた時期(1981~1985年)
3.公費負担による全面実施以降(1986年以降)に出生した世代
のHBs抗原陽性率(HBVキャリア率)、HBs抗体陽性率(HBVへの曝露率)、を対比することによって 知ることができます。
静岡県における調査成績をみると、上記の1)、2)、3)群の順に、HBs抗原陽性率は、 0.20%(7/3,446)、0.16%(77/46,993)、0.01%(2/23,792)と全面実施後には開始以前の1/20にまで減少していることがわかりました。また、HBs抗体陽性率についても、それぞれ、 0.96%(33/3,446)、0.55%(260/46,993)、0.21%(51/23,792)と開始以前の1/4以下に減少していることがわかりました(Noto H.et al 2003)。同様に、岩手県における調査成績をみても、 上記の1)、2)、3)群の順に、HBs抗原陽性率は、0.75%(78/10,437)、0.22%(46/20,812)、 0.04%(12/32,049)と減少しており、HBs抗体陽性率も、1.52%(159/10,437)、0.79%(165/20,812)、 0.85%(32/32,049)と減少していることがわかりました。さらに注目すべきことは、岩手県では HBs抗体陽性者を対象としてHBc抗体陽性率も調査されており、1)、2)、3)群の順に、 81.9%(127/155)、43.3%(68/157)、11.0%(59/536)と著明に減少しており、母子感染予防による HBVキャリアの減少(感染源の減少)に伴って、その前後の世代における水平感染も大幅に減少していることが明らかにされていることです(Koyama T. et al 2004)。
これらの成績は、HBV母子感染予防は確実にその効果を上げていることを示していると言えます。
B型肝炎ウイルス持続感染者(HBVキャリア)
B型肝炎ウイルス持続感染者(HBVキャリア)であることが分かったら、まず、B型肝炎に詳しい専門医による精密検査を受けることをお勧めします。そして、ご自身の健康を守るために、以下の事項を守ってください。
1.定期的に(少なくとも初めの1年間は2~3ヶ月に1回程度)受診し、自分の肝臓の状態を正しく知る。
2.主治医とよく相談して健康管理および必要に応じて治療の方針を立てる。
3.主治医が処方した薬を勝手に止めたり、主治医に無断で薬(薬局などで御自身が入手した薬や、民間療法の薬を含む)を服用したりしない。
4.過労を避け、規則正しい生活をこころがける。
5.飲酒を控える。
6.標準体重の維持に努める
なお、B型肝炎ウイルス(HBV)は、くしゃみ、せき、抱擁、食べ物、飲み物、食器やコップの共用、日常の接触では感染しません。
出生時または乳幼児期にB型肝炎ウイルス(HBV)に感染してB型肝炎ウイルス持続感染者(HBVキャリア)になると、その多くはある時期まで肝炎を発症せず、健康なまま経過します(無症候性キャリア)。
しかし、ほとんどのHBVキャリアでは、10歳代から30歳代の間に肝炎を発症します。一般に、この肝炎は軽いものであることが多いために、本人が気付くほどの症状が出ることはほとんどなく、検査によってのみ肝炎であることがわかります。85~90%の人では、この肝炎は数年のうちに自然に治まってまたもとの健康な状態に戻りますが、ほとんどの人ではウイルスが身体から排除されないままの状態が続きます(無症候性キャリア)。
HBVキャリアのうち、10~15%で慢性肝炎が持続し、治療が必要になるとされています。慢性肝炎を発症した場合、放置すると自覚症状がないまま肝硬変へと進展し、肝がんを発症することもあるので注意が必要です。
あります。
慢性B型肝炎患者の肝酵素値は変動しますから、ある時は正常値、別のある時は異常高値という場合もあります。慢性肝疾患があっても、1年以上肝酵素値が正常の方もいます。
AST、ALTは、肝細胞が壊れた際に血液中に放出され、その値が上昇するもの(逸脱酵素)ですから、この数値が正常であっても、肝臓の病期(線維化)はすすんだ状態にある場合もありますので、一度は専門医で精密検査を受けることをお勧めします。精密検査により異常が認められなかった場合でも、定期的に検査を受け、健康管理に努めることが大切です。
慢性肝炎を放置すると、時によっては知らず知らずのうちに肝硬変や肝がんに進展することもあるので注意が必要です。初診時の検査で、治療が必要であると診断された場合には、主治医の指示に従って適切な治療を受けてください。
初診時に、ただちに本格的な治療を始める必要はないと診断された場合でも、定期的(2~3ヶ月ごと)に検査を受け、新たに肝臓に「異常」が起こっていないかどうかをその都度確認しながら生活することが大切です。なお、定期的な検査で「異常」がみつかった場合には、主治医の指示に従って治療を開始することが必要です。
定期的に受診して、肝臓に「異常」がないことを確かめながら生活すること、アルコールの摂取を控え目にすること、そして他人への感染予防を心がけるかぎり、日常の生活習慣の変更や日常活動の制限などをする必要は全くありません。詳しくは肝臓専門医(日本肝臓学会のHPにリストが掲載されています)などにご相談下さい。
必要です。
B型肝炎ウイルス(HBV)に感染している人の治療を行う際には、B型肝炎治療に関する最新の知識、経験に基づくことが望ましいからです。
医師の診断で肝臓に「異常」(慢性肝炎)がみつかった人でも、直ちに本格的な治療を必要とするほど進んだものではない場合もあります。しかし、ある程度進んだ慢性肝炎を放置すると、時によっては、知らず知らずのうちに肝硬変や肝がんに進展することもあるので、注意が必要です。
初診時に、肝臓に「異常」がみつからなかったり、ごく軽い慢性肝炎で直ちに本格的な治療を始める必要はないと診断された場合でも、定期的に(2~3ヶ月ごと)に専門医を受診して検査を受け、新たに肝臓に「異常」が起こっていないかどうかをその都度確認しながら生活することが大切です。
B型肝炎ウイルス持続感染者(HBVキャリア)の人を、飲酒の習慣がある人とない人に分けて比較してみると、飲酒の習慣がある人の方が肝炎の病期はより速く進展することが分かっています。したがって、ごく初期の慢性肝炎と診断された場合でも、肝臓を保護するために飲酒は可能なかぎり避けることが賢明です。
- 歯ブラシ、カミソリなど血液が付着するようなものを他人と共用しない。
- 血液が他に付着しないように、皮膚の傷を覆う。
- 月経血、鼻血などは自分で始末する。
1995年から2000年までの6年間に、全国の日赤血液センターにおいて初めて献血した348.6万人について、2000年時点における年齢に換算して集計した年齢別のHBs抗原陽性率をみると、16歳~19歳で0.23%、20~29歳で0.52%、30~39歳で0.84%、40~49歳で1.19%、50~59歳で 1.50%、60~69歳で1.27%となっています(Tanaka J. et al 2004)。
これらの数値と、それぞれの年齢集団ごとの人口をもとに試算すると、2000年の時点における我が国の15歳から69歳までの人口9,332.6万人の中に86.6万人~103.1万人くらいのB型肝炎ウイルス持続感染者(HBVキャリア)の方が、自覚しないままの状態で潜在していると推計されました。
なお、「HBV母子感染防止事業」が全面的に実施に移された1986年以降に生まれた若い世代では、HBVキャリアはきわめて少数(0.04%程度)になっていることが分かっています。
治療
B型肝炎の治療法には、大きく分けて、抗ウイルス療法と免疫療法があります。
急性B型肝炎は、特に治療を行わなくとも9割以上の人ではHBs抗原陰性、肝機能正常の状態になり、臨床的に治癒します。しかし、急性B型肝炎を発症した場合、2~3%の人は肝機能不全を合併し(劇症肝炎と呼ばれます)、重篤な状態になりますので注意が必要です。
慢性肝疾患(慢性肝炎、肝硬変など)では全身状態、肝炎の病期、活動度などにより、治療法の選択が行われます。
抗ウイルス療法には、インターフェロン療法と核酸アナログ(DNAと似た構造を有する薬剤) 療法があります。現在日本ではエンテカビル、ラミブジン、アデホビルの3剤が発売されています(2014年内には、4剤目としてテノホビルが発売される予定です)。インターフェロン療法にはウイルスに対する免疫を増強する作用もあり、大切な役割を果たしています。インターフェロンは “抗ウイルス療法” であると同時に “免疫療法” であると言えます。
どちらの治療法も「肝臓の状態」や全身状態を的確に把握した上で、経過をみながら、副作用などにも注意して慎重に行う必要があるため、治療法の選択、実施にあたっては肝臓専門医とよく相談することが大切です。
インターフェロン療法は当初はHBe抗原陽性の患者さんに投与されていましたが、現在はHBe抗原陰性の患者さんにも投与されます。投与時期としてはALT値が上昇したあとの肝炎の回復期に投与することが最も効果的です。この投与方法ではインターフェロンを投与しなかった患者さんよりもHBe抗原の陰性化率、肝機能の正常化率が高いことが示されています。また、インターフェロン療法でHBe抗原陰性となった患者さんの中からHBs抗原までも消失し、肝炎が治癒したと考えられる方が出ることもわかってきました。従ってインターフェロン療法は効果があるといえます。ただし、肝機能や肝組織像、年齢、合併症等総合的な判断をもとに投与するかどうか決定する必要があるので、肝臓専門医とよく相談することが大切です。
インターフェロンには、ペグインターフェロンα(注射部位からのインターフェロン放出が徐々に起こる製剤。週1回医療機関で皮下注射が行われる)、インターフェロンα(通常型のインターフェロン製剤。週3回皮下注射する場合には自己注射が可能)、インターフェロンβ(経静脈的に投与するインターフェロン製剤)の3種類あります。
なお、インターフェロンの自己投与を行う場合は、医師の管理指導のもと, 溶解時や投与する際の操作方法を正しく修得する必要があることはいうまでもありませんが、使用した注射器や注射針の廃棄時の取扱い、処分方法にも十分注意する必要があります。具体的には、使用した注射器や注射針は、再使用やリキャップ(再び蓋をすること)をせずに、針先が突き出ない蓋つきのビンや缶などに入れて、医療廃棄物として適切に処分するようにしてください。
まず、どういう副作用が出たか、担当医に話しましょう。副作用の一部は、インターフェロンを夜に投与したり、減量することなどによって、軽減することが出来るという報告もあります。 また、インフルエンザ様の症状は、解熱鎮痛薬を投与することによって軽減が図られます。なお、インターフェロン投与後に起きた体調の変化は副作用の可能性がありますので、ちょっとした体調の変化でも担当医に伝えることが大切です。
核酸アナログはHBVの増殖を抑制する薬です。現在日本ではラミブジン、アデホビル、エンテカビル(発売順)の3種類が使用可能です。新たに核酸アナログ製剤を投与する患者さんには原則としてエンテカビルの投与が行われます(テノホビルの発売後はテノホビルもエンテカビル同様に投与可能となる予定です)。核酸アナログの投与を行うとほとんどの症例でウイルス量が低下し、ALT値の改善が認められます。日本のデータでは、エンテカビルを用いた治療によるALT値の正常化率は、1年81%、2年88%、3年93%と報告されています。
核酸アナログ製剤は飲み薬であり、副作用が少ない特徴がありますが、核酸アナログが効かない耐性ウイルスが出現することがあります。耐性ウイルスは治療期間が長くなると出現率が増加します。耐性ウイルスが出現し、ALT値が上昇した場合は、別の治療が必要になる場合があります。耐性ウイルスの出現を防ぐためには決められた投与間隔、投与量をきちんと守ることが大切です。
また、核酸アナログ製剤を中止すると、ウイルスの再増殖が起こり、ALT値が上昇することもあります。したがって、核酸アナログの治療は主治医(できれば肝臓専門医)とよく相談して実施することが大切であり、自己判断で中止することのないようにしてください。
核酸アナログの子供等への使用については、使用経験が少なく安全性が確認されていないので通常は行いません。インターフェロンの投与は子供に行う場合がありますが、子供の成長、発達やインターフェロンの副作用を十分考慮する必要があります。従って専門家が判断し、実施することが望ましいと言えます。子供の肝疾患の治療に詳しい専門医に相談することが望まれます。
出ることがあります。
HBVに急性感染した小児で、稀に四肢の皮膚症状(Gianotti病)がみられることがあります (Ishimaru Y.et al 1976)。
また、B型肝炎ウイルス持続感染者(HBVキャリア)において、腎障害(膜性糸球体腎症、膜性増殖性糸球体腎症など)がみられる場合があります(Itoh H.et al 1981)。膜性糸球体腎症の一部には、糸球体の毛細血管の基底膜にHBe抗体・抗原から成る免疫複合体が沈着したことに起因する病態があることも明らかにされています。
B型肝炎ウイルスと保健医療従事者
B型肝炎ウイルス(HBV)感染のリスクは、汚染源となったHBs抗原陽性の血液がHBe抗原陽性であるか、HBe抗体陽性であるかによって大きく異なります。
針刺し事故を起こした人がHBs抗体陰性であって、汚染源の血液がHBe抗原陽性であった場合には、37~62%の例で感染が起こると報告されています。これに対して、汚染源となった血液がHBe抗体陽性であった場合には、感染のリスクは、前者に比べれば低いですが、23~37%の間と報告されています。
針刺し事故に限らず、他人の血液に触れる機会が多い職種の人では、あらかじめB型肝炎ワクチン(HBワクチン)の接種を受けて、HBVに対する免疫を獲得したことを確かめておくこと、また1年に1回程度の頻度で免疫が持続していること(HBs抗体が陽性であること)を確かめ、HBs抗体が陰性化していることが分かった場合には、HBワクチンの追加接種を受けておくことをお勧めします。
針刺し事故を起こした人(ご本人)は、まず、できるだけすみやかに、流水中で血液を絞り出し(汚染血液の侵入量を最小限にとどめ)た後に、傷口を消毒します。
次に、HBs抗原、抗体を検査します。
ご本人がHBs抗原・抗体とも陰性である場合には、高力価HBsヒト免疫グロブリン(HBIG)をできるだけ早く(遅くとも48時間以内に)筋注します。
次に、汚染源となったHBV陽性の血液のHBe抗原、HBe抗体を検査します。
汚染源がHBe抗原陽性であった場合には、HBワクチンの接種を併用します。HBワクチン接種は、Q24に記述したプログラムに従い、3回目の接種終了後にHBVの感染予防に成功したこと (HBs抗原陰性)、およびHBワクチンの接種によりHBVに対する免疫を獲得したこと(HBs抗体陽性)を確認します。
汚染源がHBe抗体陽性であった場合には、HBIGの投与のみでほとんどの場合は予防可能であることが分かっていますが、過去の調査から、汚染事故は同一人が繰り返し起こす場合が多いことが分かっていますので、この場合でもHBワクチンの接種を併用して、予防に万全を期しておくことが望ましいと言えます。
なお、汚染後48時間以内にHBIGを1回筋注する治験が厚生省B型肝炎研究班を中心として行われた1980年代の予防成績は次のようになっています。
汚染源がHBe抗原陽性であった場合、167人中133人(80%)では予防に成功し、34人(20%)では HBVの感染が起こっていました。これに対して、汚染源がHBe抗原陰性(HBe抗体陽性)であった場合には、675人全例(100%)で感染の予防に成功しています。
その後の研究により、汚染源がHBe抗原陽性であった場合でも、HBIGの筋注投与に加えてHBワクチンの接種を併用することにより、そのほとんどが予防可能であることが明らかにされています(Mitsui T.et al 1989)。
保健医療従事者に限らず、血液に触れる可能性のある部署で働く方々は、あらかじめHBワクチンを接種して免疫をつけておくことをお勧めします。
HBワクチンを接種する前には、必ずHBs抗原、HBs抗体を検査し、両者とも陰性であることを確かめてください。
HBs抗原が陽性である場合には、HBワクチン接種の適用はありません。また、HBs抗体が陽性の場合は、HBワクチン接種の必要はありません。
HBワクチン接種のプログラムとその効果の確認方法、および以後の注意事項については詳しくはQ29をご覧ください。ただし、この場合、保険は適用されませんので、注意してください。また、 HBワクチンは妊婦に対する安全性は確立されていません。妊娠可能な女性は妊娠する前にHBワクチンを接種しておくことが時に望まれます。
仕事上の制限を受けることはありません。
一般に、HBV感染の有無にかかわらず、すべての保健医療従事者は、無菌操作と手洗いの励行による感染予防をこころがけ、注射針などの鋭利な器具による外傷を負わないように気をつけることが大切です。
このことを守っている限り、B型肝炎ウイルス持続感染者(HBVキャリア)の保健医療従事者から患者へ感染するリスクはきわめてまれです。
消毒
消毒用アルコール(酒精綿)で拭き取っただけでは不十分であることは立証されています。
1980年代に、ある高等学校で貧血検査を行なった際、その都度酒精綿で拭いながら同一の穿刺針を用いて耳朶採血をしたところ、HBe抗原陽性のB型肝炎ウイルス持続感染者(HBVキャリア)の生徒を起点として、その後に並んだ6人の生徒にHBVの感染がおこったという事例が報告されています(亀谷、他、1981)。7人目以降の生徒にHBVの感染がおこらなかったのは、消毒用アルコールによる感染性の不活化効果より、むしろ穿刺針に付着したHBVの量が酒精綿による拭き取りによりその都度減少し、感染に必要な量を下回るに至ったためではないかと想定される事例です。
血液が床などに付着した場合には、次亜塩素酸ナトリウム液を軽く染ませた雑巾で拭き取った後に、通常の雑巾で拭き取っておくことが必要です。
なお、血液が付着した手指などに外傷がない場合には、石けんを用いて流水で洗い流しておくだけで十分です。
器具、機材等は使用後すみやかに流水で十分に洗浄することが基本です。
血液が付着したまま乾燥させると、その後洗浄しても付着した血液のタンパクの除去が困難となり、その中に存在するウイルスを保護して(保護コロイドとしての作用を発揮して)、消毒を行っても感染性が残るもととなります。
消毒の方法として最も信頼性の高い方法は加熱であり、薬物消毒は加熱できない材質または形状をした器具、機材に対して用います。
加熱、薬物消毒のいずれも不可能な場合には、洗剤を用いて丹念に流水で洗浄することによってB型肝炎ウイルス(HBV)を除去します。
各種の消毒法を要約すると下記のようになります。
1.洗浄:
使用後すみやかに洗剤を用いて流水で十分に洗い流す。ウイルスを含む血清タンパクの除去、ウイルス自体の希釈、除去を目的とする。洗浄した後に加熱、薬物消毒を行なうことが大切。 流水がすぐには使えない場合は、水に浸して乾燥を防ぎ、後に洗浄する。
2.加熱:
オートクレーブ、乾熱、煮沸消毒のいずれかの方法で、設定した温度まで上昇したことを確認した後、15分以上加熱する。
3.薬物消毒:
1)塩素系消毒剤:
使用時の有効塩素濃度1,000ppmの液に1時間以上浸漬する。
(有効塩素濃度1,000ppmの消毒液をつくる時は、5~6%の次亜塩酸ナトリウム溶液(原液)を50 ~60倍に希釈する)
2)非塩素系消毒剤:
2%グルタールアルデヒト液、エチレンオキサイドガス、ホルムアルデヒド(ホルマリン)ガスを用いて消毒する場合には、器具、機材を充分に洗浄した後に水分をよく拭き取ってから燻蒸を行なう。
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